海外ものづくりレポート3 

タイトル
中小企業向けTPMの急所
担 当
村林  稔

 私の現在の仕事は、不織布と繊維リサイクル機械の会社であるフランスのLAROCHE社から、客先に
おける機械の据え付け、立ち上げ、メンテナンスの業務を請け負って、世界各地の現場を渡り歩いています。
私のような仕事をしているエンジニアは社員として5人いますが、フリーランスで契約しているのは私一人
です。それは私が独立する前に勤務していた会社でこの機械の製造ラインを管理していたエンジニアとして
の実績を買われたからなのです。
 我々は、それぞれが単独で現地に入り、現地のスタッフを指導し教育して、彼らが自分たちで機械を稼働
し保守できるように持っていきます。据え付けで約1ヵ月、稼働で2〜3週間、試作で2〜3週間の期間か
かりきりになります。私の担当エリアは主にアジアですが、中東や東欧の客先を任されることもあります。
 今回はその現場で最近痛切に感じた設備保全のあり方について報告したいと思います。

企業


1.LAROCHEとは
 創業は1926年(昭和元年)で、今年で92周年ということになります。製造品目は主に下記の内容です。
 ・繊維廃棄物をリサイクルするライン(反毛機)
 ・各種材料を正確に計量しブレンドするライン(混綿機)
 ・エアーレイによるフェルトを加工するライン(成形機)など

  初期の頃は露出型のラインであったものが、現在では密閉型になり、塵埃対策や温湿度のコントロールが
可能なように進化して、欧州の安全規則に基づいたものになっています。
だいたい1時間あたり、1.5トンから2トン製造できます。

  企業
初期の製造ライン(上)と現在の製造ライン(下)

2.製造ラインの概要
「リサイクルライン」では、現地国で仕入れたデニムの裁断くずとか古着の布地部分だけを集めて細かく
裁断して、自動でボタンやジッパーなどの不純物を取り除いて、さらにこれを解繊することでリサイクルが
完了します。(反毛棉の生成)
 
企業
リサイクルライン

 ベール機でベール(反毛棉を減容したブロック)を作ると、この状態で買い入れていく会社もあります。
自動車の内装、エアコンの断熱材とかベッドマットレスなどに使用されます。

企業
ベール

 「ブレンド&エアーレイライン」では、リサイクルされた繊維を均一な密度にして、幅が標準2.4mのロ
ールから定寸でカットし、400gsm(g/㎡)から3000gsm(g/㎡)に加工します。
 ブレンド工程で熱可塑性樹脂を混綿してオーブンで加熱し、カレンダーロールで急冷、プレスすることに
より、厚み1mmのシート状の製品に成型する事も可能です。その後の工程で定型の寸法に自動裁断します。
 この製品は車の内装材やエアコンの断熱材などに使用されます。

企業
ブレンド&エアーレイライン


3.最近増えてきた客先からのリクエスト
 設置が完了し順調に稼働し始めると、私の手を離れて現地のエンジニアが引き継いで世話をしていくこと
になります。ところが、納入した設備が5年から10年経過すると、下記のようなリクエストが増えてきた
のです。
(1) 設備の点検をしてほしい
(2) メンテナンス後の確認をしてほしい
(3) スペアーパーツのリストアップをしてほしい
 つまりお客様の企業はそんな大きな会社ではないので、メンテナンスの態勢ができていないのです。
機械の点検、取り替えや、整備の基本的なマニュアルは渡しているのですが、会社によって稼働頻度や条件が
異なるため、やはり現場にあったメンテナンスが必要なのですが、メカに弱く関心が無いという状況なのです。

 この状況が切実になる理由が、私は3つあると思っています。

 1つ目は、設備を運用して何年かすると、段々と設備のパフォーマンスが悪くなってくるのです。
すなわち、・製品の品質が低下してくる ・生産量が上がらない ・故障が多くなり、機械が止まる
・修繕費用ばかり増える、などがその現象です。

 2つ目は、純正部品が高価なため、現地国でコピーして作ることがありますが、材質が特殊なために全く
性能が出なかったり、装置を破損させたりします。

 3つ目は、マネジャーが部下(現場のエンジニア)を信用できないということもあります。私が呼ばれて
現場を見て驚くのですが、駆動部分のベアリングが割れているのに、こってりとグリースが塗られていて
わからないことがありました。日本のよくやっている会社なら毎日細かいところまで点検して、機械を我が子
のように可愛がって世話をするのですが、そうした国ではほとんど世話らしい世話をしていないのが現状
なのです。機械の音や振動で異常を感じるなどということはまずありません。動いてさえいれば、まず良しと
してしまうようです。

4.TPM(Total Productive Maintenance)の勧め
 ではどうしたらいいのでしょうか。大会社ならば人材も豊富で、必要な設備保全スタッフの予算も確保で
きるでしょう。しかし、中小企業ではそうもいきません。わかっていてもハードルは高く、なかなかキック
オフできないのが現状です。
以下、私の私見ですが、
 ①まずトップがTPMの本質を理解することです。「全員参加の金儲け」の意識付けをするのです。
  増産すれば増産益が出て、儲かります。すると社員にも還元できる余裕が生まれるはずです。社員に還元
  することで、自分の頑張りが自分に還ってくる、という意識を持たせることです。
 ②そのためには、<予防保全>に力を入れることです。<事後保全>は最悪です。ラインが止まって生産
  が減り、おまけに修繕費が高く付きます。最悪の場合はお客様からペナルティが課せられて多額の損害賠償
  を支払う事にもなります。
 ③そしてトップは信用のできる部下を担当にすることです。予防保全ができるのは現場の技術者には無理
  です。最強のオペレーターを作るには、私は生産技術者からの配置転換をお勧めします。
 ④あとは、ひたすら5Sの習慣を身につけさせ、社員の意識改革をすることです。これは本当に効果が
  出ます。「床を掃除するだけが清掃ではない!」「機械の重要箇所をきれいに掃除すること!」
  「仕事を始める前に点検すること!」 「機械が回ってから再度五感で点検すること!」
  「必要な工具は買って与える。その代わり整理.整頓!無くするな!」
   等々が大事です。
 ⑤そして、効果が出れば、報酬で報いることです。給料ではなくて、一時金でいいのです。
 (給料を上げると経営に長く影響します)
  以上が、私が海外の現地現場で実際に必要と感じた、中小企業向けTPMの急所です。
  同じような問題を抱えている中小企業の皆さん、現状からの脱皮をしましょう。 
      ・・社員にやる気が出てくるとTPMは回り出すのです。・・ 



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