次世代のものづくりは人材の育成から澁谷ものづくり人材育成研究所

2016・平成28年10月20日 『郡山北工業高等学校を訪ねて』

〜民生ロボット開発の世界大会で優勝し、2015年に内閣総理大臣賞を受賞〜


郡山北工業高等学校(以下北工)を訪問先に選んだのは、財団代表が審査員を務めている第6回ものづくり日本大賞(経済産業省、国土交通省、厚生労働省、文部科学省の4省が組織し運営)の「ものづくりの将来を担う高度な技術・技能分野」において、最高賞である内閣総理大臣賞を受賞されるとともに、民生用ロボット開発の世界大会で連続して好成績を納めておられる活動の実態から、生徒指導の真髄を学びたいと考えたのがきっかけだった。

 その世界大会とは、2010年から開催された「国際ナノ・マイクロアプリケーションコンテスト」と呼ばれるもので、MEMS(※)デバイス(いわゆるセンサー)を使ったシステムやアイデアについて、若年者を対象に行われる競技大会である。ナノ・マイクロというのは、産業用ロボットなどと異なり、微細な感度と精度の技術を活かして、暮らしや生活に役立たせるロボットの分野であることを意味する。出場する選手は、提供が可能なデバイスのリストから取捨選択し、それによって実現できる機能を考案し、実際に駆動するロボットとして、限られた日数の中で完成させるものだ。
 ※MEMS=メムス:Micro Electro Mechanical Systemの略。集積回路技術を発展させた微細加工技術(Micromachining)により回路、微細構造体、センサー、アクチュエータを一体化・集積化した機器

大震災をきっかけに、世界への挑戦が始まった。

 コンピュータ部はもともと「全国高等学校ロボット競技大会」がアウトプットの場だった。8年連続県大会優勝の実績もある。しかしこのロボット競技大会は、高い技術・技能の習得を目指すものの、課題解決型であり、エンターテインメント的な性格の強いものであるがゆえに物足りなさも感じていた。そこに新たに始まったのが、「国際ナノ・マイクロアプリケーションコンテスト」で、こちらは独創性や社会貢献を目指すことが主眼であることに目を引かれた。折しも2011年3月11日に起きた東日本大震災で福島はダメージを受け、暗いニュースが続く毎日だった。そこで生徒たちは、「福島に明るいニュースを届けよう!」「大学生に混じって僕らもやろう!」「世界に挑戦しよう!」と立ち上がった。2012年のことだった。

 1年目、2年目のトライと結果の反省を踏まえ、3年目には大きな飛躍を成し遂げることになった。2014年の第5回大会は宮城県仙台市で開催されたこともあり「防災・減災などに関するアプリケーション」というテーマが設定された。そこで、現在世界各地で多発している地震・津波・竜巻・火災などの素早い情報察知と対応を目的にした、『Pro ROBO』(Proは家族の安全を守るProtectの意味)を提案することにした。利用目的別に3つのモードを設定した。(1)監視モードは、機器の正面に取り付けられているタブレットに気温や気圧を表示する。同時に気象情報を入手する通信メディアや、セキュリティカメラも内蔵していて、地震や気圧変動、気温の上昇、火災、侵入者を監視している。異常を検出した場合は、LED表示、メッセージ、音によって警告を発する。(2)探査モードは、被害にあった場合には、瓦礫の上を移動して埋まった人を温度で探査できる。(3)コミュニケーションモードは、地域での情報共有、安否確認、避難の連絡、不審者侵入の連絡などに使える。こうした多機能型のセキュリティロボットでありながら、コスト7万円という経済性も大きな魅力であった。

北高 『Pr o ROBO』

 コンテストは、高専生、専門学校生、大学生、大学院生に混じって高校生も参加できる国際コンテストである。与えられたテーマと使用可能なMEMSデバイスの条件をもとに、まず書類審査を受ける。これを通過したらモデル製作に入る。最初の2〜3ヵ月で形にし、4ヵ月目にいったん完成させて、その後改良を重ねてだいたい半年で完成させる。コンテストでは、実演のほかに展示によるパネルセッションと審査員に対するプレゼンテーションにより評価される。北工のメンバーは5人だがその結束力と情熱で10カ国23チームがしのぎを削る中、高校生では初めてとなる「First Prize」(1位)を受賞したのである。この実績にたいして、先に紹介した第6回ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞が与えられた。
 北工ロボット部は、2014年の受賞だけではなく、2012年の北京大会では敢闘賞、2013年のバルセロナ大会では2位、2015年のアンカレッジ大会では『Pro ROBO』の実用化・製品化を意識して開発した『Shadow』を出品し3位を受賞と、3年連続で上位入賞を果たしている。

北高 2014年のメンバー5人(前列)

北高 内閣総理大臣賞の授与式

学科横断によるコンピュータ部の活動

 高校生の知識と経験では、相当ハードルが高いのではないだろうか。コンピュータ部の顧問をされている深澤剛先生(情報技術科教諭)にお話を伺った。
 「私は横から見守って、時々アドバイスはしますが、ほとんど生徒たちが自主的に活動しています。アイデアやコンセプト作りにおいては、指導者が引っ張っていっても生徒のモチベーションは上がりません。自分たちで考え、自分たちで調べて、試行錯誤するから打ち込めるのだと思います。アイデアの感性は豊かですし、必要な部品も日本になければ海外からネットで見つけてきます。その点、今の若い子は優秀だなあと感心します。私の役割は、迷ったり何かに行き詰まったりしたときにアドバイスをすることです。あとは完成にもっていくためのスケジュール管理です。生徒たちは実務の経験がありませんから、のめり込みすぎないよう止めないといけません。」

 「うちのクラブの特色は、部員は約30人いますが、情報技術科だけではなく、機械科も電気科も電子科も、また建築科もと、学科を横断して集まってきていることでしょうね。ですから、ロボットのセンサー、駆動部、通信機能、組み立て加工など、パーツパーツでセミプロのように詳しい生徒がいますから、自然と助け合っての共同作業になります。」
 ともすれば縦割りで、「隣は何をする人ぞ・・」という風潮が強い昨今の組織にあって、それぞれ取り組むテーマは違っても、横断的に助け合う気風が育っていることに新鮮な驚きを覚えた。こうした若者が学校や企業に就職したあとも、忘れずにDNAとして持ち続けていってほしいものである。

 さらに深澤先生は語る。「日々進化する工業技術に対して、工業教育では不易と流行を見極めて指導にあたらなくてはなりません。単にものづくりにおける技術・技能の習得に留まるのではなく、国際化におけるボーダーレス社会を意識し、コミュニケーション力やプレゼンテーション能力を高めることもものづくり教育の重要な役割と考えます。情報技術の時代やテクノロジーの時代から、知力の時代へ革新(Innovation)が求められている現代において、生徒たちはものづくりに対し堅忍不抜の精神で、技への飽くなき挑戦を続けています。今後も、地元はもちろん、全国や世界で活躍できる工業技術者を育成できるように広い視野を持ち、地域の方々の理解と協力をいただきながら、チーム北工として工業高校のロールモデルになれるよう責任を果たしていきたいと思っています」

北高 深澤先生

校訓はまさに<調和><創造><特色>

 北工はそもそもどんな学校なのだろう。立地はJR郡山駅から北東3キロの郊外にある。学校の前に立って驚いたのは、校門や塀が無く、入り口の左右に門替わりの大きな石が置かれているだけ、しかも構内に市バスが入り込んできてバス停まである。なんともオープンで、開かれた学校という印象を抱いた。また校訓は<調和><創造><特色>とある。まさに世界に評価されたクラブ活動そのものではないか。そんな点も含めて木田校長に話を伺った。

 「当校は1976年に福島県立郡山工業高等学校と福島県立郡山西工業高等学校が統合して、今の場所に新たに設置されたものです。ちょうど40周年を迎えたところです。統合前の2つの校舎は、そのまま普通科の工業高校として使われています。オープンな環境というイメージを持たれたかもしれませんが、私たちには当たり前としか思っていませんでした。」
 「機械科、電気科、電子科、情報技術科、建築科、化学工業科があり、全体で832名の生徒数です。(平成28年4月現在)今年度の課題の一番には学力向上をあげていますが、特に安全教育と資格指導に力を入れています。ものづくり基礎教育として、安全教育から道具の使い方、工作機械の名称・使用方法までを、工業技術基礎1学年において、本校が独自に編集した安全指導マニュアルを全員に配布して指導し、事故の絶無に努めています。また保護者には資格取得マップを配布し、今どのような資格取得の時期なのかを知っていただき、ご理解と支援をしていただけるようにと考えています。」

北高 北高 安全指導マニュアルと資格取得マップ

 こうした学校側の努力の結果が、学校評価アンケート集計結果に表れている。「ものづくりをとおし夢・挑戦・感動を体験させ、資格取得のための指導や実践がなされている」という項目が、生徒で89.8%、保護者で88.8%という数字に。また「日ごろから怪我等のないよう安全教育を徹底している」という項目は、生徒で94.8%、保護者で91.0%という高い評価を得ている。また「あいさつ、ものを大切にするなどの躾教育を十分に行い、基本的生活習慣の確立に努めている」という項目は、生徒で92.3%、保護者で85.8%となっており、学校の中を案内していただいたときの生徒諸君の元気な挨拶と礼儀正しい態度がそのことを裏付けていた。

 北工ではコンピュータ部以外にも、多くの優秀な成績を残している。たとえば、電気部では、「世界青少年発明工夫展(台湾)2015」でゴールドメダル受賞、「高校生技術アイディアコンテスト」でも理事長特別賞を受賞。建築科では「高校生のガーデンエクステリアコンテスト2015」で最優秀賞を獲得している。運動部でもラグビー部、バレーボール部、ソフトボール部は全国大会に出場するレベルである。  卒業生の就職内定と進学合格で100%を達成している。65%が企業に就職の道に進み、多くが地元の企業を選んでいる。4年制大学への進学が16%、専門学校には14%などとなっている。

北高 本館玄関を門からのぞむ

北高 木田校長

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